免疫と神経

 免疫系と中枢神経系との関連は、免疫系に関与する遺伝子が脳などで発現することが古くから知られています。例えば、抗体の多様性獲得のための遺伝子再編を担うRAG1やRAG2遺伝子は、脳でも発現することが知られています。しかし、免疫系に特有の応答に関与する遺伝子がなぜ中枢神経系でも発現しているのかは不明です。

Riplet/RNF135遺伝子

自然免疫での働き

 私達はウイルス感染に対する自然免疫応答の研究から、Riplet(別名:RNF135)と名付けた分子を発見しました。このRiplet分子は、ウイルス感染時のI型インターフェロン産生に非常に重要な働きをします。そのため、Riplet遺伝子をノックアウトしたマウスはウイルス感染後に生存率が著しく低下します(右図参照)。

 

中枢神経での働き

 自然免疫系で働くこのRiplet分子は、免疫系以外の細胞でも発現しています。外国のグループからヒトのRiplet/RNF135遺伝子に変異があると、学習障害が生じやすいことが報告されました(Douglas J et al Nature Genetics 39: 963-965 (2017)。また、その他にも患者によっては自閉症の症状を示す場合もあります。しかし、なぜ、自然免疫で働くRiplet分子が中枢神経の役割である学習に影響を及ぼすのかは全く解明されていません。

 

野生型のマウス(WT)とRipletノックアウトマウス(Riplet -/-)にVSVと呼ばれるウイルスを感染させました。その後の生存率をグラフにしています。野生型のマウスでは死亡しないような条件でもRipletノックアウトマウスは死亡し生存率が低下します。


免疫は考える?

 自然免疫で働く分子が中枢神経でも働くのであれば様々なことが明らかになると期待されます。

 

 例えば:

・ウイルス感染が心の病を引き起こす理由

・心の病により感染症に罹り安くなる理由

 

 この他にも、免疫がなぜ神経系の働きに関与するのか、あるいは関与せざるをえないのかを解明することで、新しいフロンティアを開拓できることが期待されます。