私たちの研究室での新しいワクチン開発への取り組み

・予防法のなかった感染症に対するワクチンの開発(ジカ熱やエボラ出血熱など)

 

・高齢者へのワクチンの開発(従来のワクチンは高齢者への予防効果が高くないという問題点があります)

 

・身体に優しいワクチンの開発(痛みなどの原因になる炎症を抑えるワクチンの開発など)

 

(大学院生として入学を希望している方で、詳しい研究内容について知りたい方は気軽にご連絡ください)

ワクチンによる感染症予防

 天然痘は非常に怖い病気で、致死率も高く、前世紀初頭まではもっとも怖れられた感染症の一つです。世界最初のワクチンは、この天然痘ウイルスの感染を予防するために考案されました。

 

 免疫学の父として知られるエドワード・ジェンナーが牛の天然痘に感染した患者の膿を用いて作ったものが、世界最初のワクチンとして知られる種痘です。エドワード・ジェンナーは18世紀頃のイギリスで活躍した医師ですが、歴史を紐解くとと、実は、ヨーロッパに天然痘のワクチンを伝えたのは、メアリー・モンタギューという女性でした。彼女は当時のトルコで使われていた天然痘のワクチンをイギリスに持ち帰ったのです。

 

 当時のイギリスでは女性への偏見があったことから、メアリーは男性のようには学ぶ機会が与えられていませんでしたが、非常に聡明な女性で多くのエッセイなどを残しています。そして、トルコから持ち帰った天然痘のワクチンの普及に努め、当時反対するイギリスのお医者さんたちを説得して、ワクチンの普及に努めたのです。そして、あのエドワード・ジェンナーも子供の頃に、このメアリーがイギリスに伝えた天然痘のワクチンを受けたと云われています。

 

 メアリー・モンタギューやエドワード・ジェンナーの活躍により天然痘は20世紀に撲滅されました。また、天然痘以外の感染症を予防するためにルイ・パスツールは様々なワクチンを開発しました。その後、多くの研究者が、様々なワクチンを開発することで感染症を予防することに成功しました。

 

 現在の日本では、死因の第一位はがんですが、100年ほど前までは感染症が死因の一位でした。発展途上国では未だに感染症が死因の第一位になっている国もあります。このような状況を改善したのがワクチンです。

 

 このように、死因の第一位となる感染症を減らすことに大きく貢献したワクチンですが、ワクチンを受けた後に腫れたり発熱したりする人がいることが以前から知られていました。これはワクチンの副反応と呼ばれるものです。研究が進むにつれて、副反応の多くが過剰な免疫応答に原因があることがわかってきました。

 

 例えば、ワクチンを接種した皮下にいるマクロファージなどの細胞が炎症性サイトカインと呼ばれる物質を大量に放出すると、近くの毛細血管の透過性があがり、血液の液体成分が血管から漏れ出ることで、腫れや赤みの原因になること、あるいは、炎症性サイトカインの一部が、内因性発熱物質として働き体温を上昇させることがわかってきました。

 

メアリー・モンタギューを紹介している動画は下記のYou Tubeで見ることができます

ワクチンと副反応

一方で、副反応には局所での腫れや痛みだけでなく、非常に希有なケースとして、神経系に対する自己免疫疾患が生じることも指摘されています。

 

 私たちの研究室では、この副反応が生じる原因や、何故、副反応が有る人と無い人がいるのかについて研究を進めてきました。実は私たちの身体のなかには、細胞外小胞(Extracellular vesicles)と呼ばれるウイルスほどの大きさの小さな小胞が血液の中を循環しています。この細胞外小胞内にあるmicroRNAとよばれる遺伝情報をもつRNAのバランスが壊れることと、副反応が生じることに関連があることがわかってきました。

 

 例えば、miR-451aとmiR-16と呼ばれるmicroRNAのバランスの違いが、マクロファージが産生するサイトカインやケモカインの量に大きく影響を与えることを私たちは発見しました。

 

 左の図の縦軸は、マクロファージが産生するサイトカインのIFN-βの量を示し、横軸は、血液の細胞外小胞内のmiR-451aとmiR-16のバランスを示します。このmiR-451a/miR-16の比と、サイトカイン量が逆相関することがわかります

(参照: Okamoto M et al JBC 2018 293: 18585-18600)

 

 この他にも、miR-451aとmiR-16のバランスが変化することで、ワクチンの成分に対する免疫応答の強さが変化することが、動物実験などでわかってきました。詳しくは、上記の論文をご覧ください。


 この細胞外小胞内のmiR-451aとmiR-16のバランスは数ヶ月かけてゆっくりと変動することもわかってきました。つまり、このバランスが大きく崩れることが、ワクチンの副反応の出方に影響をあたえているのではないかと考えて研究をつづけています。

 

 左の図は、健康な人の血液中の細胞外小胞について、miR-451aとmiR-16のバランスの変化を経時的に調べたものです。

 

 6人について120日間追跡調査をしたところ、最初の1週間では殆ど変換していません。しかし、一ヶ月たつと、2倍以上変化する人が一人現れ、3ヶ月後には、6人中の5人以上が、2倍以上変化しました。

 

 詳細に調べると、10倍以上変動することもあり、また健康な人の中では30倍ほど、バランスが異なります。このようなバランスの変化が、ワクチンの成分に対する免疫応答の強さに影響をあたえるのではないかと考えています。

(参照: Okamoto M et al JBC 2018 293: 18585-18600)

 


 私たちはこのような成果を論文として発表して、特許も出願しました。現在は臨床研究をおこない、どのような副反応をどれぐらい正確に予測できるのかについての研究を進めています。ワクチンによる感染症予防効果に加えて、副反応が生じるメカニズムを解明することが、ワクチンへの正しい理解へと繋がり、これが、接種率の向上に繋がると私たちは期待しています。

 左の図は、2018・2019インフルエンザシーズンに、ワクチンを受けた人の臨床データです。ワクチン接種前に血液を採取し、細胞外小胞のmicroRNA(miR-451aなど)を測定すると、ワクチンを接種したあとに生じる、痛み、痒み、赤み、腫れなどが生じるかどうかを予測できることがわかりました。

 

引用:Miyashita Y et al PLOS ONE 2019, 14(7): e0219510

図説明:

(C)33人について予め採血し、血液中の細胞外小胞内のmicroRNA量を測定しました。インフルエンザワクチン接種後の腫れ、痛み、赤み、痒みについてアンケート形式で質問し、その症状が複数有った人(Multiple)と一つ又は無かった人(Single or None)に分けてプロットしたところ、複数の症状が有った人(炎症が強かった人)はmicroRNA量が低下していました。

(D)microRNA量でグラフを描き直すと、microRNA量が低いと、複数の症状を示す人(炎症が強かった人)が8割ほどの高い値を示しました。