自然免疫

RIG-I様受容体とウイルス感染

 細胞質の中にウイルスが入ってくると、RIG-Iと呼ばれるタンパク質が発見します。RIG-Iは、ウイルスのRNAを発見すると、次のような流れで、サイトカインの産生を誘導します。

 

 ウイルスRNA → RIG-I → MAVS → TBK1 → IRF3 → I型インターフェロン遺伝子の発現誘導

 

 私たちの研究室では、この分子経路に働く分子として

 ・Ripletユビキチンリガーゼ(Oshiumi H et al JBC 2009, Oshiumi H et al Cell Host & Microbe 2010)

 ・DDX3ヘリカーゼ(Oshiumi H et al PLoS One, Oshiumi H et al Eur. J. Immunol 2010)

 ・DDX60ヘリカーゼ(Miyashita M et al MCB 2011, Oshiumi H et al Cell Repors 2015)

 ・RIO3キナーゼ(Takashima K et al Cell Reports 2015)

 ・Zyxin足場タンパク質(Kouwaki T et al Scientific Reports 2017)

 ・ZNF598分子(Wang G et al Cell Reports 2019)

などの分子を発見しています。

 

 実験として次のような実験手法を使って研究しています。

・ヒトやマウスの培養細胞を使った実験(免疫沈降、ウェスタンブロット、定量PCR法などによる分子生物学的な実験)

・培養細胞へのウイルス感染実験(インフルエンザウイルス、センダイウイルスなどの調整と感染実験)

・ノックアウトマウスを使った生体内での解析(マウス個体への観戦実験や、フローサイトメイターを用いた免疫学的実験)

 

Ripletユビキチンリガーゼの働き

 細胞質内のウイルスRNAセンサーであるRIG-Iは、Ripletユビキチンリガーゼによりポリユビキチン化される。(Oshiumi H et al PLoS Pathog. 2013)。

DDX3ヘリカーゼの役割

 C型肝炎ウイルスのコアタンパク質( Core)は、DDX3分子に結合して、RIG-I分子によるI型インターフェロン産生を抑制する(Oshiumi H et al PLoS One 2010)。


Zyxin分子の働き

Zyxinタンパク質とMAVSタンパク質の結合を、PLA法により検出した(赤:二つのタンパク質が結合している場所、青:核)(Kouwaki T et al Scientific Reports 2017)。

Riplet KOマウスの解析

Riplet遺伝子を破壊すると、インフルエンザウイルス(Flu)観戦時のI型インターフェロンの産生が大きく減少する(Oshiumi H et al Cell Host & Microbe 2010)。


C型肝炎ウイルスによる自然免疫の抑制

 C型肝炎ウイルスはヒトの肝がんの約7割の原因となるウイルスです。C型肝炎ウイルス(Hepatitis C Virus: HCV)は、フラビウイルス科の一本鎖RNAをゲノムにもつウイルスです。

 自然免疫応答により産生されるI型インターフェロンは、C型肝炎の治療薬としても使用されています。C型肝炎ウイルスが感染すると、自然免疫応答によりI型インターフェロンが産生され、ウイルスは排除されるはずですが、C型肝炎ウイルスは、この自然免疫応答を抑制する能力をもっています。

 2005年にスイス、ローザンヌ大学のTshopp Jらは、C型肝炎ウイルスのもつタンパク質の一つが、自然免疫応答で重要なMAVS(別名Cardif又はIPS-1)と呼ばれる分子を切断することで、I型インターフェロンの産生を抑制することを報告しました(Melylan E et al Nature 2005 437:1167-1172)。一方で、私達の研究グループは2013年に、このC型肝炎ウイルスのタンパク質が、自然免疫で働く分子の一つのRiplet分子も切断することを報告しました(Oshiumi H et al PLoS Pathogens 2013 9:e1003433)。他のグループは、自然免疫で働くTICAM-1(別名TRIF)と呼ばれる分子がC型肝炎ウイルスのタンパク質により切断されることも報告されています。これらMAVSRipletTICAM-1は全て、I型インターフェロンの産生で非常に重要な役割を果たす分子です。このように、C型肝炎ウイルスは、ヒトの自然免疫系の分子を分解することで、自然免疫応答から逃れ、ヒトの肝臓で十数年に亘り持続感染し、肝がんの原因となることがわかってきました。

 

 C型肝炎ウイルスのNS3-4Aプロテアーゼは、ウイルスタンパク質の成熟のために働きますが、このウイルスのNS3-4Aプロテアーゼは、ヒトの自然免疫で働くMAVSやRiplet分子を切断します。これらの分子は、ウイルス感染時のI型インターフェロン産生に必須であるため、C型肝炎ウイルスに感染したヒトの肝細胞はI型インターフェロンを産生できません。

 

 I型インターフェロンは強い抗ウイルス作用を持つため、C型肝炎の治療薬としても使用されています。このように、ウイルスはヒトの自然免疫を抑制する能力をもつことが多々あります。

 

 C型肝炎ウイルス以外にも、新型インフルエンザなどで知られるA型インフルエンザウイルスのNS1タンパク質もRiplet分子の機能を抑制することが知られています。

 C型肝炎ウイルスのNS3-4Aタンパク質があると、RipletによるRIG-Iのユビキチン化が阻害されてしまいます。

(Oshiumi H et al PLoS Pathogens 2013)

C型肝炎ウイルスに感染すると細胞内のRipletタンパク質が分解されて消えてしまいます。

(Oshiumi H et al PLoS Pathogens 2013)


エクソソームと自然免疫

 細胞から放出される小胞は細胞外小胞(Extracellular vesiclesEV)と呼ばれます。この細胞外小胞には、細胞の多胞体(Multivesicular body: MV)から放出されるエクソソームや、細胞膜から放出される微少小胞(Microvesicles)を含みます。エクソソームはmRNAmicroRNAなどの機能的なRNAに加えて様々なタンパク質を含み、エクソソームがこれらのRNAやタンパク質を他の細胞へと伝達する役割を担うことがわかっています。また、最近の研究から、エクソソームだけでなく、微少小胞も同様の役割を担うことが明らかとなってきました。

 正常な細胞から放出されるエクソソームと異なり、がん細胞から放出されるエクソソームは、がん細胞特異的なRNAやタンパク質を含むことから、エクソソームががん診断へと応用できる可能性が注目されています。私達の研究室では、ウイルスに感染した細胞から放出されるエクソソームに着目し研究をしたところ、ウイルス感染細胞から放出されるエクソソームに、ウイルス由来の成分が含まれることを発見しました。さらに、ウイルス感染細胞と非感染細胞から放出されるエクソソームを詳細に比較したところ、エクソソーム内の宿主の成分も大きく変化することを発見しました。

 例えばヒトの肝がんの主要な原因となるB型肝炎ウイルスの場合、B型肝炎ウイルスに感染した肝細胞から放出されるエクソソームには、B型肝炎ウイルスのRNAが含まれることを発見しました。このエクソソーム内のウイルスRNAがマクロファージに認識されると、マクロファージは、NK細胞活性化受容体を発現し、NK細胞依存的なIFN-γの産生を誘導することを発見しました。また、ウイルス感染により大きく変化するエクソソーム内の宿主成分としてmiR-21miR-29aと呼ばれるmicroRNAを同定しました。このmiR-21miR-29aはマクロファージからのIL-12産生を抑制する働きをします。おそらくウイルスは、宿主の自然免疫を逃れるために、エクソソームの宿主成分を変化させ、ウイルスにとって有利な環境を築いていると思われます。詳しくはKouwaki T et al Frontiers in Immunologyの論文をご覧下さい。